ブックレビュー

愛するということ

はじめに

「愛するということ」という大きなテーマですが、ドイツの精神分析学者エーリッヒ・フロムはこの本で様々なことに言及しています。まず第1章で「愛は技術か」という問いに向かい合い、第2章では「愛の理論」と題して、兄弟愛や母性愛、自己愛など各論的な考察を行なっています。そして第3章では「愛と現代西洋社会におけるその崩壊」で現代社会における愛の機能不全について論じており、最終章では「愛の習練」と称して実践の習得に道引いてくれています。

現代における愛の機能不全とは?

性機能不全の患者さんに多数お会いし、診療している身としては、この書で最も印象に残ったものは、第3章の「愛と現代社会における崩壊」でした。具体的には、最も頻繁に認められる性的障害として、言い方は古いのですが「女性の冷感症」と「男性の心理的インポテンツ」があります。フロム曰く、『そうした障害の原因は、正しい性的テクニックを知らないことにあるのではなく、愛することをできなくするような抑制にある』とのことです。つまり、異性に対する恐怖あるいは増悪があり、そのために完全に没頭するとか、自発的に行動するとか、直接的な肉体的接触において性的パートナーを信頼すると言ったことができていないということらしいです。

そして我々ができること

この本を読むと、客観的に愛というものを再確認できると思います。特に、性カウンセリングを行なっている立場から「性的に抑圧されている人が、恐怖や増悪から解放され、それによって人を愛することができるようになれば、性的な問題は解決する」という言葉は感銘を受けました。我々も、様々な性カウンセリングを行なっておりますが、女性の性嫌悪症の背景には、ドメスティックバイオレンスやAV受け売りのワガママな性行為が背景にあっての性に対する嫌悪、恐怖を抱く方も少なくありません。心因性EDも勃起・射精に対する義務感、不安感が背景になっていることが多いです。このような方たちに対して、適切に対応するための良書かと思います。またそのような事で悩んでいる方たちにも是非一読していただきたい本です。