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女性の性的欲求低下に対するお薬:フリバンセリンについて

みなさん、フリバンセリンというお薬をご存知でしょうか?これは、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)にも認められている女性の性欲低下障害に対する内服薬になります。今回は、フリバンセリンについて詳しく解説していきたいと思います。

フリバンセリンは2015年にアメリカの厚生労働省にあたるFDAが女性の性的欲求低下障害(Hypoactive Sexual Desire Disorder:HSDD)に対して、服用後の調査を義務付けた一部条件付きで承認したお薬です。日本では、正式に承認された薬ではありません。

ネットを検索するとフリバンセリンは「女性用バイアグラ」と喧伝されていますが、バイアグラに代表される「PDE5阻害薬」という薬物とは全く異なるものです。バイアグラが局所に働いて勃起を助ける薬だとしたら、フリバンセリンは中枢性に働いて脳内伝達物質、特にドーパミンとノルエピネフリンのレベルを増加させ、セロトニンを減少させることにより、性的欲求を改善させるというものです。

フリバンセリンはもともと抗うつ薬として開発されていた経緯があり、薬理作用としては、5-HT1A作動薬、5-HT2A拮抗薬、ドパミンD4受容体に対する非常に弱い部分作動薬になります。従って作用部位としては脳内に働くので、バイアグラ的な作用はありません。

ちなみに女性のHSDDに関しては以下のサイト(メイヨクリニック)で治療選択肢に入っていますので、欧米諸国では標準的な治療と考えて良いと思います。https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/female-sexual-dysfunction/diagnosis-treatment/drc-20372556

ちなみにこれは、先発薬であるAddyi®︎のサイトになります。https://addyi.com

このサイトでも紹介されていますが、フリバンセリンの服用により、挿入を伴う性交渉以外にもマスターベーションやオーラルセックスにおいても性的満足度が上昇しています。また性的欲求の上昇に伴い、性欲低下によるフラストレーションの減少も確認されています。

ここで2016年に出版された、フリバンセリンの効果と安全性に関するシステマティックレビューとメタアナリシス(複数の論文を集めて評価したもの)を紹介したいと思います。原文は以下のリンクから確認ください。https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2497781

  • 女性の性欲減退症(HSDD)治療に対するフリバンセリンの有効性と安全性を評価するため、無作為化臨床試験の系統的レビューとメタ解析が行われた。
  • この研究では、8つの臨床試験から約6,000人の女性が組み入れられた。その結果、フリバンセリンはプラセボと比較して、ベースラインから1ヵ月あたり約0.5回、性的に満足できる出来事(SSE)の回数を増加させたことが示された。
  • しかし、このSSEの増加に伴い、めまい、傾眠、吐き気などの有害事象のリスクを2倍から4倍に有意に増加させることを伴っていた。

総合的な評価でフリバンセリンは有効性が認められています。しかし注意しないといけないのは服用できない方、併用してはいけないもの、その副作用です。

以下に要点をまとめます。

フリバンセリン服用にあたっての注意点

可能性のある副作用

  • めまい 、 眠気、 不眠 、 口の渇き、 吐気、倦怠感 
  • →このような症状がある場合は服用を中止し医師に相談が必要です。慣れるまでは服用後の車の運転や機械の操作はお控えください。
  • 特に、アルコール摂取後2時間以内にフリバンセリンを服用した場合は血圧低下による失神のリスクが高まるので、注意が必要です。
  • →飲酒後フリバンセリンを服用する場合は最低でも2~3 時間は空けてください。3杯以上の飲酒の場合は服用をスキップしてください。また服用後の飲酒もしないでください。

服用してはいけない方

  • 授乳中の方(妊娠に対する影響はないといわれています)
  • 低血圧症の診断がされている方 
  • アルコール依存症の方 
  • 重度の肝機能障害、C型肝炎治療中の方
  • 抗真菌薬・抗HIV薬・高血圧に対する降圧薬を服用している方

同時服用してはいけないもの

  • 経口避妊薬
  • 抗うつ剤
  • プロトンポンプインヒビター(PPI)
  • グレープフルーツ、グレープフルーツジュース
  • St. John’s Wort, ginkgo, レスベラロールなどのサプリメント

これらのお薬、サプリや食品はCYP3A4という代謝物質の濃度に影響を及ぼすことが知られており、フリバンセリンの血中濃度が上がることによって、副作用の頻度が増加する可能性があるため、注意が必要です。どうしても服用しなければならない場合は時間をずらして服用しましょう。経口避妊薬に関しては以下のような研究もあり、ピルの血中濃度には影響を与えなかったという報告もあります。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29198449/

われわれのセックスセラピーでは、女性側の性欲低下・性嫌悪によりセックスレスに陥っているカップルを多数経験しています。その中で、フリバンセリンを服用してみたら改善が得られるかもしれないと考えられるケースもいらっしゃいます。

現在、フリバンセリンは有志医師による個人輸入の形で、日本においても限られたクリニックで処方することが可能です。まずはカウンセリングを受けていただき、フリバンセリンをお試しになりたい方に対しては、適応があればクリニックをご紹介することも可能です。ここで書いたように副作用の可能性もあるので、必ず医師の診察のもと服用することが重要です。