論文紹介・学術活動

心因性勃起不全の治療はPDE5阻害薬単独よりカウンセリングを加えた方がよい

我々は心因性勃起不全(ED)の相談者に対して、行動療法と心理カウンセリングを用いてセックスセラピー行っています(詳しくはこちらをご覧ください)。心因性EDの方の多くは、バイアグラ®、シアリス®、レビドラ®などのホスホジエステラーゼ-5阻害剤(PDE5i) を服用したことがあるようですが、一部の方は効果があまり認められません。そこで、我々のセックスセラピーを加えることによって、性機能が改善していきます。経験上その効果は明らかですが、このアプローチについて諸外国の論文をまとめたメタ分析がありましたので紹介致します。

この記事では、勃起不全(ED)に対する心理的介入とPDE5iの併用療法の有効性と安全性について、文献レビューとメタ分析の結果を紹介します。EDは、男性性機能障害の中でも最も一般的なものであり、生活の質や心理的健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。EDの原因は多様であり、生物学的、心理的、社会的な要因が複雑に関与しています。そのため、EDの治療には、これらの要因に対応した包括的かつ多面的なアプローチが必要です。

PDE5iは、EDの一次治療として広く用いられている薬物療法であり、血管拡張作用により陰茎への血流を増加させることで勃起を促進します。PDE5iは、一般的には高い有効性と良好な忍容性を示しますが、すべての患者に対して効果があるわけではありません。また、PDE5iは、心理的な問題やパートナーとの関係に対処することはできません。そのため、PDE5i単独では不十分な場合や、PDE5iに対する反応が低下した場合には、心理的介入を併用することが推奨されています。

心理的介入とは、EDの原因や影響に関連する心理的な要因に焦点を当てたカウンセリングやセラピーのことであり、認知行動療法(CBT)、カップル療法(CT)、性機能改善プログラム(SIP)などがあります。心理的介入は、EDの患者やパートナーのストレスや不安を軽減し、自信や自己効力感を向上させることで、性的満足度や生活の質を改善することが期待されます。また、心理的介入は、PDE5iの服用に関する知識や期待値を調整し、PDE5iへの依存や服用中止を防ぐこともできます。

本レビューでは、心理的介入とPDE5iの併用療法に関するランダム化比較試験(RCT)をシステマティックに検索し、メタ分析を行いました。検索対象としたデータベースはPubMed, Cochrane Library, Web of Science, PsycINFO, EMBASEであり、2020年12月31日までに発表された英語または日本語の文献を対象としました。選択基準は以下の通りです。

  • EDの成人男性患者を対象としたRCTであること
  • 心理的介入とPDE5iの併用群とPDE5i単独群を比較したものであること
  • EDの重症度や性的満足度などのアウトカムを測定したものであること

検索結果は、合計で12件のRCTを含む1,026件の文献でした。そのうち、8件のRCTがメタ分析に適格でした。これらのRCTは、合計で507人のED患者を対象としており、心理的介入としてはCBTやCT、SIPなどが用いられていました。PDE5iとしては、シルデナフィルやタダラフィルなどが用いられていました。メタ分析の結果、心理的介入とPDE5iの併用群は、PDE5i単独群に比べて、以下の点で有意に優れていました。

  • EDの重症度が低下した(標準化平均差[SMD]=-0.57, 95%信頼区間[CI]=-0.86~-0.28, p<0.001)
  • EDに関する自己効力感が向上した(SMD=0.69, 95%CI=0.35~1.03, p<0.001)
  • EDに関する不安が減少した(SMD=-0.50, 95%CI=-0.80~-0.20, p=0.001)
  • 性的満足度が向上した(SMD=0.44, 95%CI=0.13~0.75, p=0.005)

本レビューとメタ分析は、心理的介入とPDE5iの併用療法が、EDの治療においてPDE5i単独療法よりも有効であることを示しています。心理的介入は、EDの生物学的なメカニズムだけでなく、心理的・社会的な要因にもアプローチすることで、EDの改善や予防に寄与すると考えられます。また、心理的介入は、PDE5iの効果を最大限に引き出すことや、PDE5iへの依存や服用中止を防ぐことにも有効です。したがって、EDの治療においては、心理的介入とPDE5iの併用療法を積極的に推奨することが望ましいと言えます。

本レビューとメタ分析には、以下のような限界があります。

  • 含まれたRCTの数や患者数が少ないこと
  • 含まれたRCTの質が不均一であること
  • 心理的介入やPDE5iの種類や期間が異なること
  • メタ分析に含められなかったアウトカムがあること(例:生活の質やパートナー関係)

今後の研究では、これらの限界を克服するために、より多くの高品質なRCTを実施し、心理的介入やPDE5iの最適な種類や期間を検討し、さまざまなアウトカムを評価する必要があります。

最後に、この論文は私たちEsolveで行っているセックスセラピーが、科学的に妥当であることを証明するものだと思いました。今後もこのような学術的な洞察も行いながら、カウンセリング活動を継続していきたいと思います。